【 入 選 】

【テーマ:私がやってみたい仕事・働き方】
父のような働き方
大分県 吉川加奈子 20歳

私の理想とする働き方を体現しているのは、父である。

高校生の頃、どうして就職して社会人にならなければならないのだろうと億劫に感じていたことがある。ずっと学生として、好きなことだけをしたいのにと思っていた。その頃の私は、テレビやインターネット、年頃の友人の影響で、「働くこと=お金を貰うためだけにする、自分のしたいことではない大変なこと」というネガティブなイメージを持っていた。そこで父にその思いを伝え、なぜ働いているのかを尋ねた。しばらく黙った父を見て、怒っているか落胆しているのだと不安になった。しかし予想に反して、「好きなことをしながら給料を貰えて、知らなかった人達と友達になれて、感謝までしてもらえる。大変なことも多いけど、お父さんは毎日楽しんでいるよ」と父は笑った。詳しく聞くと、多種多様な人達と協力して仕事をしているため混乱や衝突もあるが、それを含め新しいことを経験でき、仕事を成し遂げるといつでも想像以上にありがとうと言ってもらえるから、学生時代より充足感が得られ満足しているという。働くことで得られる「お金以外の大切なもの」を父が実体験を交えながら語ってくれたことで、私の漠然とした偏見はなくなった。思えば父はもっと若いころから仕事に対して一所懸命で、楽しそうに仕事をしていた。そのとき、仕事はお金を稼ぐためにするものだと考えていた稚拙な自分をとても恥ずかしく感じたと同時に、私も父と同じように将来は自分の仕事に自信を持ち、その仕事自体に愛情を抱き楽しみながら働きたいと思った。

それから大学に入りアルバイトを始めると、父の言っていたことを実感するようになった。私自身、お客さんにお礼を言われたり感謝されたりすると、やはり嬉しいし充実感が得られる。図書館で本を読んだり友人と遊んだりするのも楽しいけれど、人の役に立っていることを体感することはまた別の満足感がある。仕事をすることで社会の一員となり誰かの役に立てることを実感できる喜びを、学生のうちから背中で教えてくれた父を本当に尊敬する。大学まで通わせてもらえ、経済的にも精神的にも何不自由なく生活させてくれていることにも感謝をしているけれど、何より自分の仕事を胸を張って娘に自慢できる父の仕事に対する姿勢が大好きである。本人に伝えると、「普通のことだよ」と照れて否定する。しかし自分のアイデンティティとして仕事をあげられる人が減っている昨今、堂々とそれができることを尊敬するし、私も将来そのような働き方がしたい。

そして私の卒業後の夢は、海外のNGOや政府組織で現地の人と密接に関わりながら、インフラや教育などの面で現地の人たちに役立つことであり、そのために言語や必要な知識を勉強している。国内で建築業に携わっている父とは全く違う道だ。しかし職種や働く地域は違っても、どれだけその仕事自体を好きになれるか、いかに与えられた環境を楽しめるかが働く上でとても重要であることに変わりはないと思う。学業の合間にアルバイトをしているだけの私はまだまだ労働経験が浅く、これから視野が広がるにつれて考え方も変化するかもしれない。それでも父が教えてくれた自身の働き方はきっと、私のこれからの人生の教訓であり続けるだろうと確信しているし、そういう人生を歩むことを期待している。

私も3年後、自分が選んだ仕事に誇りを持ち、支えてくれる人たちに感謝しながら働ける大人になりたい。その日の仕事での失敗談を語りながら、笑顔でビールを飲む父を思い出してそう思った。

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