【 入 選 】
今回、「世界と日本」という視点で仕事の在り方を考えるにあたり、ドイツと日本の仕事について比較をしていきたい。今回、ドイツを比較対象として取り上げる理由としては、いくつかの理由がある。ドイツは日本と同じく敗戦国であると同時に、自動車や重化学工業、電機、環境産業などが主要産業であり、多くの共通点がある。また国土面積は、両国とも38万Km2とほぼ同じ。ドイツの人口は8千万と、日本のおよそ3分の2といったところだろうか。彼らもまた勤勉で、戦後の再建はめざましいものであった。周辺諸国との関係を改善し、1990年の東西ドイツ統一以後は、欧州経済の原動力としての地位を固めていった。
私自身、ドイツで働いたことは無いものの、多くのドイツ人の友人やドイツで働く日本人の友人がいる。彼らから見聞きしたドイツ人の働き方や職業環境についてまとめていきたい。
ドイツ人の働き方としてまず特筆すべき点は、仕事と家庭のバランスの保ち方が、非常にうまいということだろうか。ドイツにおいても日本同様に、フレックスタイム制があるが、基本的には朝早く出勤し、夕方のまだ明るいうちに帰宅し、家族とゆっくり時間を過ごしている。勤務時間内に仕事を片付け、残業はほとんどしないという。仕事後に飲むことは少ないが、その代わりに休日に友人や同僚をホームパーティーに呼ぶそうだ。そして、日本と大きく違う点としては、長期の休暇を取れることである。ドイツでは、2週間から長い人だと1か月近くの休みを取り、バカンスに出かけるという。
ここまで、ドイツ人一人ひとりの働き方を見てきたが、社会全体として環境はどうなのかについて触れていきたい。ヨーロッパの経済を牽引するドイツも、1990年代には高い労働コストによる「ドイツ病」に悩まされてきたのである。1990年代後半以降、ドイツは単位労働コストの削減に取り組んできた。その結果として、リーマンショック後に、失業率上昇に歯止めをかけることにも成功した。ドイツでは、経済が失速した際にクルツ・アルバイト(時間短縮勤務)という制度を導入している。これは、一人あたりの労働時間を削減する代わりに、労働者の解雇を回避してきた。これは、単に失業率の上昇を抑制するだけでなく、高度な技能を持った技術者や熟練工を国内から流出させることを防いできたともいわれている。
これらの、個人レベルの働き方に加えて、社会の仕組みとしての働き方が、厳しい経済環境の中でのドイツ社会全体の高い創造性や、国際社会での競争力の源泉になっているではないだろうか。
日本人の働き方には、固有の良い面や効率性、実用性を兼ね備えているのは事実である。これをベースとして、多くの若い人材が海外の働き方を知ることで、これを日本に持ち帰り、日本人の働き方を変えていくことが、将来の日本社会の強さや柔軟さにつながっていくのではないだろうか。