【 努力賞 】
【テーマ:仕事・職場から学んだこと】
私にとっての就職活動
静岡県 砂子幸弘 57歳

私は現在私立女子高校で就職係りを担当している教員である。普通科の学校なので大半が進学志望で就職希望者は1割ほど。社会に出て働くのは、経済的に進学する余裕がなくその選択をする者もいるが、多くが勉強が嫌いだという理由からである。年度当初に就職希望者に話を聞くと、「給料が高くて休みが多く楽な仕事」がいいと言う。そういうことを真顔で言う生徒が毎年いる。私たち私立学校は進学実績を重視する傾向がある。そのため就職希望者は脇役のようなものである。しかも公立の実業高校に主要企業求人の大半を持って行かれる。そのような状況下で生徒個人と接しながら卒業時に全員が就職内定を目標に歩んでいくのである。まず夏期休暇中に彼女達に職場を見学させるのが大事である。企業名と求人票だけではわからない現場がそこにある。天井に大きな羽根のついた蒸し暑い工場の中で暗い作業服でのラインの仕事、華やかな売り場と対照的な雑然とした事務所、年齢層が高く話が合いそうもない社員達、とにかく仲の良い友人と常にいっしょにいられる学生生活との大きな隔たりを彼女達は初めて実感する。春夏冬に長期休暇があった高校と違い、毎日朝から晩まで不自由な社会人としての生活が待っているのだ。大人にとって当たり前のことが生徒には受け入れがたいことで、当然、1箇所では決まらず数か所職場見学をするようになる。職場見学には係りとして私が同伴するが、生徒はまず会社の人達の前で黙ってしまう。同学年としか付き合わないので世代を超えた人とうまく話せないのである。そして少し大変そうだとその仕事は無理、と結論づける。ただ労働意欲がないわけではなくアルバイトなら抵抗感なく働けるようだ。職種を選べて時間に融通が利き拘束時間も少ないのが魅力なのだろう。お金をもらえるなら同じと思ってしまうのが現在の高校生気質でもある。

それでも何とか生徒の受験企業が決まる、しかし志望動機が全く言えない。職場見学した時の印象を考えてみたら、と助言する。内定の大きな決め手となる面接試験の練習は何度目からか、ようやく声が出てくる。 初めは他人任せの彼女達だが、履歴書に添削を入れ、職場見学を一緒にしていると自らについて考えるようになり少しづつ真剣に取り組むようになる。しかし非情にも不採用通知が続々届く。授業中に顔見知りの先生から居眠りを注意されるのとは違い、外部の人から自分はいらない、と宣告される衝撃は大きい。元々逆境に強くない彼女達なので、萎えた気持ちを再び駆り立てるのは大変。新たな会社選びとなる。その分内定書が届いた時の感激は大きい。

若干18歳で一生の仕事を決めるのは難しい。最初は企業について何も知らない。しかし正社員として賞与や有給休暇を獲得し、責任ある社会人として自覚を持つことは大切である。そして迷っている娘の背中を最後に後押しするのは親の出番である。物分かりが良いのか放任なのかわからない親もいるが、期待したい。しかしせっかく就職できたのに短期間で辞めてしまう者も少なくない。生徒の辛抱が足りないのか、こちらが無理強いしてしまっていたのか。こんな時、就職指導の難しさをいつも感じる。そんな空しさを感じている時、ある卒業生が来校した。ようやく卒業できたくらいの成績で美容師希望の彼女だったが、案の定辞めたいと言ってきた。でも「あの暑い夏休みに一緒に何社もまわってくれて美容院の長い説明会を聞いてくれた先生のためにも頑張らなくちゃね」と締めくくってくれた。何気ない言葉だが私には心温まるものだった。 学校という限られた世界しか知らない私が、これらの活動を通して彼女達の成長の過程を知ることが自分にとっての「就職活動」なのかなと思った。

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