学校を卒業し、就職してからというもの、仕事とは私にとって何なのか、常に考え続けてきた。
私は現在衣料品メーカーで縫製の仕事に従事している。転職は実に8回目。結婚と出産がなければおそらく最初に就職した電機メーカーで、今も営業事務の仕事を続けていたと思う。
しかし当時の私は、既婚の女は家事と育児に忙殺され、仕事にさける労力も半減し、それは会社と私個人の双方にとって不幸な結果をまねくことになると考え、簡単に退職してしまった。
子育てや主婦業をしながらも働き続ける労働者の権利についてや、一個人が生涯仕事を続けていくための職場環境の改善をはかることまで考えることもなかったのである。
結局私はその後も生活のために再就職をし、パートタイムや人材派遣で事務や受付の仕事をしていたのだが、会社が倒産したり、業績不振で契約終了になったりして、その都度転職を余儀なくされてきた。
事務や受付という職種はこなし易く誰でもできるため人気だが、人員の取り替えが容易な仕事である。不況とOA化が進み、ますます事務職の求人は狭き門になり、それは今後も改善されることはないだろう。そんななかでやっと見つけた職場も、人間関係や労働環境がすこぶる悪く続けていくのが困難で挫折の繰り返し、最後にした事務職の契約は正社員の産休期間の代替要員であったが、終了時には神経をすり減らし、すっかり参ってしまった。
すぐに人の取り替えがきく仕事に未来が感じられない、もともとそんなに好きだった訳でもない、面白味のない仕事なので社員同士もつまらないところに目が行き、いさかいが生じ、精神的に追い込まれてしまう。
自分に自信がなくなり、再就職に不安感が出来てしまったが、無職でいられるほどの経済的な余裕はない。 いろいろ考えた末、ふと子供のころから好きだった縫い物の仕事はどうだろうと思いつき、未経験だったが衣料品メーカーに縫製工として就職、現在に至る。
今までの仕事とはまるで違い、縫製は社内外の他人にいらぬ気遣いをすることもなく、出社前に胃薬を飲まなくてもよくなった。毎日時間通りに仕事をして帰宅する。シンプルで精神衛生上は大変よい、気楽な仕事である。40歳を過ぎてからの手習いで最初は全くなにも出来なかったが、毎日毎日練習するうちに、少しずつ技術が上達していくことを感じ取ることができる。職人仕事は才能というよりも、1にも2にも日頃の鍛錬と根気が大事なことを知った。
1日中座りっぱなしで、目や腕を酷使する重労働であるため、肩こりや頭痛、腰痛などの職業病が常につきまとう。加えて労働量の割にはほとんどの会社が非常に低賃金である。
それでも湿布を体に貼ったり、鍼灸や整骨院に通ったりしながらも、私はなんとかこの仕事を続けていきたいと思っている。
何回もの転職を経験し、仕事はある意味身を削ってするものだと思いはじめたからである。天職と呼ばれる仕事でも、楽しくやりがいのあることばかりではない、なにかしらの不都合はつきものだ。その不都合とうまく折り合いをつけて、最後まで続けることができたらよいと思う。それは人生も同じではないだろうか。
つねに努力する気持ちと、根気を持ち続けることで、あらゆる困難をのりこえていけると私は仕事を通じて学んだ。万人にこの二つを持ち続けていける仕事が見つかることを願ってやまない。