【 入 選 】

【テーマ:非正規雇用者として社会と職場に期待すること】
未来を担う非正規労働の在り方
福島県 かわぐちゆうこ 45歳

20年前、バブル経済まっただ中の頃、当時売れまくっていた女性求人誌のCMでモデルの女性が口ずさんでいたのはこんな歌詞だった。
「職業選択の自由、アハハン♪」

仕事は、選べる時代であり、何年か社員としてのキャリアを積めば、もっと好待遇での転職も期待できた。派遣という新しい働き方も生まれ、若い女性の支持を集めていた。

この時代の派遣社員というのは、社会に縛られず、自分の実力とスキルを武器に世の中を渡っていける、自由で格好いい女性(男性もいたかもしれないが)という、明らかにプラスイメージであり、結婚前後に派遣になる女性は、私だけではなかったはずだ。

ところが、バブル崩壊後、事態は一変した。リストラは、まず派遣から、「派遣切り」なる言葉も生まれていく。
さらに派遣にも、時代を反映した新たな種が生まれる。スキルなど必用のない、スポット的穴埋め人材派遣「アウトソーシング」がそれである。経験が必要ない分、賃金も安く、交通費は、何処へ派遣されても一律五百円だったりする。社員食堂も使えず、車の中で休憩。労働者は、使い捨てという思惑を強く感じて悲痛な気持ちにされる。

私も、今の職場に辿り着くまでは、このような現場を巡り、掛け持ちもしてきた。予定していた仕事が、急にキャンセルされることもあれば、朝の突然の呼び出しで、仕事に駆り出されることもあった。しかし、私の場合、結婚後は、転勤、出産、子育てと忙しく、このような、スポット的な勤務形態しか選択出来なかった様に思う。病気がちだった子供は、入院することも何度かあり、母親の私が働くことは、困難であったが、働かなければならない事情があった。何度も面接を受けてはみたが、親以外に子供を見てくれる人(祖父母など)が近くにいなければ、無理でしょうと言われてしまう。受け入れてくれたのは、常勤ではない、スポット派遣だけだった。

子供を持つものが働く際、一番の悩みは子供を預かってくれるところをどうするかだ。
市町村の保育園では、一般的には、常勤でなければ、預かってもらえない。派遣収入の半分が、民間保育園の保育料に消えてしまっても、今後の仕事を得るためには、投資だと思うしかないのが、現状だ。しかし、派遣会社に保育施設があればどうだろう、独身時代のキャリアを生かせる有能な主婦が集まるのではないかと思う。他にも、新人研修や、パワーアップセミナー、スキルアップ支援制度などを、派遣会社が行っていけば、やる気のある若い人材も集まり、育ち、派遣先企業の信頼を得ることに繋がるのではないだろうか。

ほとんど、仕事に就いたことのない若い世代も増えていると思う。このような若者が社会に出て行こうともがいているときは、支援が必要だと思う。やっと芽生えた勇気を、使い捨てにするような雇用で、自信喪失してほしくない。アウトソーシングの派遣社員達は、企業に守られてはいない。単身で送り込まれれば自分の休憩場所を見つけることさえ困難で、任期を全うするまでに至らないことが多い。「駄目なら別の者に行かせますから」そんな派遣会社の担当者の台詞を何度も傍で聞いた。

また、長期勤務をこなしてきた者は、同世代の社員との格差の中で、否応のない劣等感を植え付けられているように感じる。頑張っても昇進することもなく、未来に希望が見いだせず、頑張る目標もない。ただ今を生活するだけで一杯一杯になるのである。ローンが組めず、車も家も持てない、だから、結婚なんてするつもりはない、子供も作らなくていい。こう考える気持ちも理解出来る。こんな若い世代が増えていっていいのであろうか、どうにかすべきではないのか?

私の現在の勤務先では、工業高校のインターシップを受け入れている。働くことが初めての高校生達に職業体験をしてもらい、現場の先輩方から直接話を聞けるこの制度を、私はもっと普及させるべきだと思う。普通高校の生徒、進学希望の生徒も22歳未満の非正規雇用の若年労働者にも、このような体験は何度か必要であると思う。学生たちと接してみて、この体験が、良くも悪くも必ず未来に繋がっていくものと感じるからだ。また幼少期の頃から、積極的に将来の職業についての夢を持たせるような、体験をさせることが大切だと思うのだが、それが難しい家庭もある。学校と社会が連携して取り組むべきではないかと感じる。

朝の通勤ラッシュの時間に会社員風のいでたちの若い人が少なくなった。そんな声も聞こえる。少子化だけの問題であろうか、少子化も景気も、今の若年層の雇用状況の改善により、良い方に変化していくのではと、単純に考えてしまう。

厚生労働省は、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップ等を支援する「キャリアアップ助成金」を創設したが、多くの企業で活用されることを期待したい。

2013年非正規雇用の労働者の割合は、全体の3分の1を超え、過去最高の水準となった。特に24歳未満の若年層で多くなっているという。この人達が未来に希望を持てるような、努力が、夢が叶うような社会であって欲しいと願う。この人達は、私たちの日本の、大切な息子たち、娘たちであり、日本の未来は、彼らの肩に託されているのだから。

最後に私自身のことを少しお話しします。派遣の仕事を掛け持ちしていた私でしたが、3年間、時々、短期派遣の仕事をさせていただいた現在の職場にパートとして採用していただき、8年目となりました。非正規雇用ながらも、有給も賞与もあり、仕事にやりがいもある職場に、この場をお借りして感謝の気持ちを伝えたいと思います。若くもない私に声を掛けて下さったこと、未熟な私を育てて下さる現場の皆さん、心からありがとうございます。これからも少しでもお役に立てるよう努めていきたいと思っています。

「春色に高下無く花枝に自ら短長あり」
働くかたちは、人それぞれ。生き生きと仕事をこなす姿は誰でも輝いていると思います。

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