公益財団法人 勤労青少年躍進会 理事長賞

【テーマ:非正規雇用者として社会と職場に期待すること】
スキルアップを目指して、今
大分県 江野尻悦子 58歳

非正規雇用者が1900万人を超え、全労働者の4割に迫っていると聞き、大変驚いた。

その内の2割が正社員になれずに、仕方なく非正規雇用者として働いているという。25歳から34歳の若者に至ってはその3割らしい。私は終身雇用の時代を知っているだけに、現代の働き方が多いのには驚かされ、正直、馴染めないところがある。

とは言っても、私は行政機関等の非正規雇用者として働き始めて16年になる。その間に4回の転職を繰り返した。県等の嘱託職員は有期限契約であり、最長3年から4年の契約のところが多い。私は16年前に県の障害者施設の職員として働く機会に恵まれた。家庭の事情で生計を立てなければならず、当時は仕事に就けることに感謝した。有難いと思った。その思いが仕事に真摯に向き合うことを教えてくれた。学びの場として、働きながら福祉の勉強を1から始めようと思った。月の勤務が18日は有難かった。子育てにも時間を費やせた。時間的なゆとりは非正規雇用のメリットの一つであるかもしれない。社会福祉士と介護支援専門員の資格を取得した頃、就労の期限がきて次の職場へと移らなくてはならなかった。

次の職場で高齢者の相談員として働き、その仕事に慣れた頃、また期限切れとなり、職探しを余儀なくされた。幸い、仕事は途切れることなく、何とか生計を維持することができ、今に至っている。期限がくるたび、職探しに心が折れそうになった。心が折れそうになるたび、スキルアップを目指した。有期限雇用のハンディをメリットに変える、「転んでもただでは起きない」精神が私を支えた。転職するたびに専門知識を増やそうと歯を食い縛った。

それからもう一つ、職場環境にも恵まれた。同僚たちの理解もあり、福祉系の大学院を卒業することができた。50歳を過ぎてからの大学院は本当に意義のあるものだった。仕事が終わってからの授業、レポートや論文に追われる日々、忙しい中に人との繋がりの大切さを学んだ。高齢者の相談員を経てから、女性の相談員、ひとり親家庭の相談員として勤めることができた。相談業務の中で、精神障害を持つ方が多いことを知り、精神保健福祉士の資格を取得した。そして今、障害者の方の雇用に携わる仕事に就いている。

非正規雇用者はスキルアップの機会が少ないと言われる。正社員であれば研修会への参加や戦力としての教育など、様々なキャリア形成の仕組みが用意されている。非正規雇用者にはそれがない。自分でスキルアップをしなくてはならない。しかしそのための費用に、自腹を切ることは難しい。私は出費を抑えるために、いろいろな制度を利用させていただいた。大学院の授業料は免除されるなど、恵まれた状況であったと思う。

ワーキングプアという言葉を最近よく耳にする。働く貧困層は若者を中心に増えていると聞く。ブラック企業のターゲットになるのも若者である。若者が元気よく、いきいきと働ける社会は、きっと明るい未来が待っている。正社員を希望する人には、それが叶う社会であってほしい。若い人たちが働き方を選べる社会になってほしい。非正規雇用者であるゆえに収入が低く、結婚ができないと思う人がいてはならない。結婚して、子供を育て将来に展望の持てる社会であってほしいと思う。

官制ワーキングプアという言葉を耳にして、まさに私もその一人であると知った。行政機関等で働きながら、ボーナスや退職金はなく、しかも低収入である。しかし私は充実した労働を得られたと満足している。これからも学ぶチャンスがあればチャレンジしたいと考えている。働くことで社会に繋がり、社会の一員として今よりも前に進みたい、まだまだ内なる炎は燃えている。

多くの若者の炎が今以上に燃える社会の実現を期待している。

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