【 努 力 賞 】
私が仕事を通じて学んだことは、「仕事は、給料+α」だということだ。
私が初めて仕事をしたのは、駅の中の喫茶店で接客の仕事だった。時給は800円だった。駅の中ということもあり、時間によっては、満席になることもよくあった。これまで仕事をしたことのない私は、失敗ばかりしていた。そんな私に、アルバイト指導係のIさんは、厳しく対応した。お皿やコップを割ったら「自分のお金で同じもの買っておいで。無理でも、時給から差し引くよ」注文を聞き間違えたら「お客さんのことを軽く考えているなら、いますぐ帰れ」という。失敗すると、自分でも悔しく思い、できない自分を責める。そんな気持ちでいる私に、Iさんはいつも厳しい言葉を投げつける。休憩室のトイレで何度となく、泣いたこともある。いままで、親にもこんなに怒られたことがなかった私は、Iさんに恐怖心すら抱くようになり、Iさんと一緒に仕事をするときは、手が震えることもあった。「こんな思いまでして、アルバイトしなくても」「時給800円なら他にもたくさんある」という考えが頭に浮かんだが、小心者の私は「アルバイト、辞めます」と、Iさんに伝えることが、怖くてできなかった。
そんな思いのまま、失敗を繰り返しながらアルバイトを続けていたある日、Iさんから「おまえみたいな奴でも、いてくれて助かったわ」と言われた。その日は、祇園祭で観光客も多く、席は常に満席状態。Iさんも私も「いらっしゃいませ」の声が嗄れていた。Iさんにそう言ってもらえたことで、自信がつき、結局、大学4年間、その喫茶店でのアルバイトを続けた。
そのIさんが、私に繰り返し言っていたのは、「仕事は、給料+α」だ。ただ、仕事に行って、給料をもらうだけではなくて、何かを学び、スキルとして持ち帰れということらしい。そして、「+α」の部分を意識して、仕事に取り組むことで、人間は成長していくのではないかと言っていた。大学生の時には、あまりピンとこなかったが、今、社会人として働いていると、その言葉の意味がよくわかる。
大学を卒業して、営業職についた。ペーパードライバーだったが、毎日運転していると、運転が上手くなり、休みの日に九州までドライブ旅行をすることができた。営業として、医療機関を回っていたときは、看護師さんと話すこと医療業界のことも学ぶことができた。人と話すことが苦手だったが、気持ちがいい会話を心掛けることで、営業成績が伸び、自分自身も人と話すことが好きになった。
仕事を通じて、様々なことを学び、成長していく。仕事で得たスキルが自分のプライベートな時間も充実させてくれる。「仕事は、給料+α」で、αの部分で何を学んで帰るかが大事だ。今も仕事をマンネリ化させず、いつもこの言葉を思い出して、仕事に取り組んでいる。