【 努 力 賞 】
寒さが骨の髄にまで染み渡る季節になると、毎日天候の事で気がもめる。
私の夫はトラックドライバーをしている。雪が降れば路面が凍結し、事故が増える。そして渋滞が起れば、仕事に支障が出る。積雪によるトラブルを想定し、暗い内から起き出して仕事に赴く夫。
室内でも吐く息が白くなる、寒々とした空気の中、身を縮めながら出て行くその背を見送る時、事故もなく無事安全に今日も一日仕事を終えられたら…と、いつもただそれだけを思う。
夫が現職に就いて、もうすぐ4年になる。山あいの道で猿に出くわした。鹿の親子をみた。と、剽(ひょう)げた笑みを浮かべて教えてくれる日もあれば、疲労と眠気で不機嫌に押し黙る日もある。長男の入園式も多忙で休めなかった。
厳しい仕事だと思う。けれどトラックが好きで、30歳を過ぎてから今の仕事に転職した夫は、愚痴の一つもこぼさずたんたんと仕事に向かう。
「働く事」とは「生きる事」そのものなのだと、私は夫の背から学んだ。
それは、子供がまだ小さく私が働けない今、夫が職を失えばたちまち困窮する、という経済的な意味あいだけではない。
口下手な夫は、あまり自分の思いを語らない。また私より10歳以上年上と言う事もあり、亭主関白で子供のオムツも替えた事がない。そんなイクメンとはほど遠い夫だが、ひたむきに働く自分の姿から、子供達が何かを学び感じ取ってくれるものがあれば…そう思っているようだ。夫の愚直なまでの仕事に対する真摯さは夫の生き様そのものであり、働く事が夫にとっての育児なのだ。
そんな夫の姿を見て、今私が一つだけ行っている事。それは誰かに道を聞かれた時、なるべく丁寧に親切に教えるようにしていると言う事だ。
職業柄、見知らぬ土地を訪れる事が多い夫。初めての納品場所にとまどい、道を聞く事も多い。そして無事納品先に着いても、自分より随分若い担当者にぞんざいな対応をされる事もたびたびあると言う。
私が助ける事さえ出来ない遠い土地で、もしも夫が困っていたら誰かが優しく手をさしのべてくれますように…。
そんな祈りにも似た思いを込めて、今日も私は夫の姿を見送るのだ。