【 努 力 賞 】
「過去と他人は変えられない。自分と未来は変えられる」職業訓練校の入校式、学校長から投げかけられたエールである。
間もなく26歳を迎える初春、私は職業訓練校入校の面接を受ける為に、とある施設にいた。現役時代は就職氷河期の真っただ中。100社以上応募するも内定はゼロ。「どうして私は落ちるの?」「受かった人と私の何が違うの?」自問自答を繰り返し、落ち込む毎日。結局、内定はもらえぬまま、学生生活は卒業を迎える。
それからの2年間は毎日が苦痛でたまらなかった。応募の電話をしても「未経験者は募集してない」と門前払い。運よく面接に進んでも「君には向かないね」等と嫌味を言われる始末。追い打ちをかけるように、私生活でもトラブルが重なり精神的にズタズタになっていた私は、人生そのものが苦痛に…。やることなすこと全てがうまくいかない、とにかく他人がうらやましくて仕方なく、コンプレックスは膨らむ一方であった。
職業訓練校の存在を知ったのは、心身ともに限界が来ていたそんな頃だった。「いつまでもフリーターではいられない」「現状を打破したい」という気持ちから、思い切って受験することに。
面接日当日、控室でこれまでの日々を思い出す。「私を落とした企業を絶対後悔させるんだ!」自らを奮い立たせ、これまでの悲しみ、悔しさ、もがき若しんだ日々をこの面接に全てぶつける…。終えた時はこれまでに感じたことのない充実感でいっぱいだった事は、言うまでもない。
晴れて合格した私は、訓練校の生徒として、入校式を迎える。そこでの出会いがこれまでの人生感を大きく覆すとは、私はまだ知る由もなかった。
「皆さんご入校おめでとう。私から皆さんに送りたい言葉は、ただひとつ。『過去と他人は変えられない。自分と未来は変えられる』皆さんの学較生活がより充実したものになるよう全力でサポートさせて頂きます」
その時の私は、恥ずかしながらほとんど内容を聴き流し、かろうじて上記の言葉のみ記憶に残った程度であった。その言葉の真の意味を理解するには、まだ時間を要した。
いざ実習が始まると、年齢、経歴が異なるクラスメイトたちと様々な事を話すようになった。これまでの仕事に関するエピソード、現在、離婚の危機に瀕している、就活の途中経過等、比較的若年層の部類であった私は、人生の先輩たちのお話に興味津々、毎日通うことが楽しみでたまらなかった。なにより「就職」という同じ目標に向かって頑張っているのは、私だけではない、という事を非常に心強く感じた。元々私は、協調性がなく、他人と何かを成し遂げることが大の若手である。そんな変化に若干、戸惑いつつ、訓練校での日々は過ぎ行くのであった。
そして迎えた修了式。学校長の言葉である。「皆さん修了おめでとう。私は皆さんに入校式で、ある言葉を贈りました。皆さんはもうあの時の皆さんではない。無事に全員単位を取得し、今日の日を迎えられた」
その時、私の脳裏にあの言葉がよぎった。
『過去と他人は変えられない。自分と未来は変えられる』
この言葉の真の意味を私はようやく理解した。いつまでも過去をひきずり、前を向けない自分。物事がうまく進まない状況を家族のせいにする自分。とにかく私は「自分自身」が大嫌いだったのである。自分が自分を嫌いで、誰が私を採用してくれる?誰が私を認めてくれる?自分の弱さをまず認め、怖くとも一歩踏み出さなければ、何も始まらないのである。今、私は職業訓練を無事やり遂げ、かけがえのない仲間たちと修了を迎えられ、何とも言えない気持ちでいっぱいである。しかしまだようやくスタート地点に立ったに過ぎない。今は訓練校で学んだ事を活かすべく、資格試験に向けて猛勉強中である。私の人生はまだ始まったばかり。失敗を恐れず様々な事に挑戦し、経験を積み、今後の人生の糧にしていきたい。