【 佳 作 】

【テーマ:私の背中を押してくれたあの一言】
母のメール
神奈川県 川崎太郎 28歳

「決して、才能があるなんて、勘違いしないようにね」

これは母から送られた言葉。

褒められると思っていた当時の私の胸に突き刺さり、そして、今は、私の道しるべとなっている言葉だ。

5年前の春、大学を卒業し、社会人になった。

夢に悩みながら、就職活動に苦しみながらたどりついた仕事は「広告制作」

高校生の頃からあこがれていたコピーライターの職につくことができた。

しかし、希望通りの職業につくことができた私を待っていたのは、想像以上に過酷な職場だった。

上司のオッケーが出るまで、何度も何度も書き直す。

ひとつのコピーを提案するのに、1000本のコピーを書くこともあった。

上司という関門を突破できても、つぎはクライアントのシビアな目が待っている。

このような状況のなかで、寝る時間を削って表現を磨きつづけながら、広告を世の中にだすことがいかに難しいことか実感していった。

ある日、そんな厳しい環境にヘトヘトになっている私に、うれしいニュースが飛び込んできた。

携わった広告原稿が、とある広告賞を受賞したという。

新人としても、会社としても快挙と言える受賞だった。

努力が報われ、たくさんのひとに祝ってもらい、本当にうれしかった。

このニュースを真っ先に知らせたひとがいた。実家の母だ。

メールを送ると、すぐに返信があり、こう書いてあった。

「おめでとう。
でも、決して、才能があるなんて、勘違いしないようにね」

私は、心底ドキリとした。

ビギナーズラックに浮かれて、調子に乗っている自分の気持ちを見透かされた気がした。

あれから5年。幸運にも、その後もいくつかの広告賞をもらうことができ、まだコピーライターをつづけられている。

でも思う。あのとき、母の言葉がなかったら、ビギナーズラックに浮かれたまま、努力を怠っていたのではないかと。

あの一見すると厳しい言葉があったから、努力を忘れることなく、いまも目の前の仕事に全力で励むことができているのではないかと。

あのメールは、叱咤のカタチをした愛だったのだと思う。

ありがとう。母さん。

あなたの厳しい言葉のおかげで、私は今日もがんばることができています。

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