【 佳 作 】

【テーマ:私の背中を押してくれたあの一言】
だって掃除でしょ
東京都 米田 優子 26歳

「宇宙飛行士になりたい!」小学校6年生の時卒業文集に書いた夢だ。

15年後。ここはトイレ。私はゴム手袋をして、汗を垂らして、小便器を磨いている。頭の中では、友人の言葉がこだましていた。

「辞めて他の会社で働きなよ、だって掃除でしょ」

友人にそう言われたのは、この前の日曜日。自分の仕事をバカにされたと思った。はじめは腹が立った。でも、そう言った友人の気持ちもわかる気がした。

「私は宇宙飛行士になる」と、小さいころからつい最近まで、大きな夢を語ってきたのを、友達は知っている。それが今、掃除の仕事をやっているので、「掃除の仕事は汚いから本当はやりたくないんじゃないの」ということなのだろう。

清掃員も、宇宙飛行士も、立派だ。この仕事は立派とか、低級とか言うのは間違っていると頭では分かっている。しかし、それにこだわってしまう自分も、心の隅で、宇宙飛行士は立派で、掃除は低級と、思っているのではないだろうかと思った。

この言葉をきっかけに、なぜこの仕事をしているのかを考え直してみた。

大学院を卒業する時も、宇宙飛行士になりたいと公言していた。しかし、掃除のアルバイトをきっかけに、掃除がその時一番やりたいことになった。きれいになると気持ちがいいし、体を動かしてすがすがしいし、縁の下の力持ち的でかっこいいからだ。

私は正社員で清掃の仕事に就いた。掃除の仕事は慣れないながらも、充実している。掃除は、きれいで快適な環境を作る。掃除は、使った人がすがすがしくなれる。掃除は、使った人のこれからの生活をよりイキイキさせることができる。掃除って最高じゃないか。

ところで、まだはっきりしていないこともある。掃除の良さは分かったのに、まだ宇宙飛行士になりたい。これは、掃除を見下しているからなのだろうか。いや、違う。私はどちらも好きだからだ。言葉では言い表せないが、そう、感じる。

宇宙飛行士の夢はどうするのか。もちろん、清掃は好きだが、宇宙飛行士になりたいのは変わらない。でも、これからどうすればよいのか、さっぱり見当もつかない。

しばらく考えて、私はつぶやいた。

「その答えは、私がこれから作るんだ」
そう言い聞かせて、洗面台の鏡をピカピカにしていった。

だって掃除は最高!だから。

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