【 努 力 賞 】

【テーマ:私の背中を押してくれたあの一言】
VSOPでがんばれ!
東京都 西村 捷敏 73歳

私は今73歳、約半世紀前のお話です。22歳で北海道しか知らない青年が東京に出てきて、N社という大企業に入社しました。2カ月ほど新入社員教育があって、そして工場の労務部門に配属になりました。早速新入社員歓迎会をやってくれたわけであります。

それもお開きになってお礼を述べて会社の寮へ帰ろうとした時、配属になった職場の係長さん、30代前半の係長さんでしたが、「西村君、二次会ちょっと付き合ってくれ」と言って、係長は、私だけ、私がその係に配属になったひとりの新入社員でしたから、二次会をやってくれたわけであります。その時初めてVSOPという高級ブランデーをご馳走になりました。「まあ飲め飲め」と。私は「よろしくお願いします」と、おいしく飲んでいたわけであります。

突然、係長は、「西村君、これだよ」と言うわけであります。その高級ブランデーのVSOPを指しているのです。「何でしょうか」「君ね、これから長いマラソンレース。このVSOP、これを頭に入れておきなさい」と。私は思いつきで何か言っているのだろうと思ったのですが、その次に言われた言葉に深く感動したわけであります。

「このVというのは、バイタリティーのVだ。君は22歳、20代というのは、このバイタリティーだよ、どん欲に吸収しなさい。体力はある。少々のことではへこたれない。とにかくバイタリティーだ。これが20代の生き方だよ」と。

そして次に、「S、これはスペシャリティのSだ。スペシャリティ、これは30代だ。30代で専門性を身につけよ、自分の仕事に関連して、これだけは他の追随を許さないという専門性を何かしっかり身につけることだよ」と。

さらに、「三つ目のOというのはオリジナリティだ。これは独創的なもの、その人ならではのもの40代で生み出していかなければならないよ」と。

そして最後に、「Pはパーソナリティ。人格だ。人間的な魅力だ。50代になったら管理職になり、さらに会社の経営を担う人になるかもしれない。リーダーシップというのは人間的な魅力から生まれてくるものだ。これから君の長いN社での人生が始まる。このVSOPは私自身の目標であるが、君もこのVSOPを念頭に置いてがんばれ!」と熱っぽく語られたのです。

私は、N社に入社して一番最初に係長から聞いたこのVSOPを、以後決して忘れたことはありませんでした。私にとってまさに「私の背中を押してくれたあの一言」そのものでした。このVSOPが、その後の私の絶えざる職業能力再開発という生涯学習実践につながってきていたように思うのであります。

現在の私は隠居の身ですが、子や孫そして後輩たちに、この言葉をバトンタッチしていきたいと、心から願っている次第なのです。

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