【 佳 作 】
「お前達は定時制だから、全日制より勉強が楽だ。勉強はしなくていい。こんな軽い気持ちで入学したのなら大間違いだぞ」
「お前達は昼間仕事をして、夜勉強がしたくて入学したんだろう。どうせ入ったんなら“全日制の奴等に負けてたまるか!!”という根性を持って勉強せい」
入学式の日、担任になった石田先生に発破をかけられた、私は雷に打たれたようになり、中学校気分が一気に吹き飛んだ。
農家長男に生れ、父からは、「農家を継げば食いぱくれがねい」と言われていたので、全日制への進学は諦めていた。
中学3年になった時、父は「全日制には出せないから、定時制に行け」と言われた。私はすっかり勉強をやる気がなくなり、中3の一年間は勉強に身が入らなかった。
「定時制なら誰でも入れる、受験勉強なんかするもんか。百姓に勉強なんか必要ない」と考え、半ばヤケになっていた。
ところが、自分より学力の低い連中が、家が裕福だという理由で、全日制高校に進学したのを見ると、やっぱり悔しかった。
こんな中途半端な気持ちのまま入学式を迎えた私は、石田先生の発破で目が覚めた。「うーん、この先生なら信頼出来るかも知れないぞ」
「よし、頑張って全日制に行ったレベルの低い奴等の鼻を明かしてやるか」と少し意地の悪い気持ちになった。
教科書も先生も全日制と変わらず、高校の授業が始まった。私は勉強の中味に興味を持った。「こりゃー、やる気になって頑張れば、全日制の奴等に負けない力が付くかも知れない」と思った。
しかし、昼間働いて夜勉強というのは、口で言う程簡単ではない。ともすれば、折れそうになる心を“全日制の奴等に負けてたまるか”という石田先生の教えが、しっかり支えてくれた。
昭和25年から29年まで、石田先生は常に「全日制の奴等に負けるな、本気になって勉強せい」叱咤激励された。
私も本気で勉強に励んだが、結果を出さなければ、石田先生の期待に応えることが出来ないと考えた。そこで国家公務員試験を受けることに決めた。
国家公務員試験なら、公平な結果が出る。全日制も定時制も関係ないと考え、それから全力で受験に取組み、合格することができた。
石田先生は、大変喜んで下さった。その瞳は「俺の発破はよく効いたなあー、これからも頑張れよ」と言っていた。
それ以来、「全日制の奴等に負けてたまるか」は、私の一生を支えてくれた大切な言葉になった。
私の精神的な支柱になり、この言葉に励まされ、背中を押されて、あらゆる困難に打ち勝って来ることができた。今は亡き恩師に心から感謝している。