【 入 選 】

【テーマ:仕事から学んだこと】
働くことの意義
神奈川県 橋本 佳代子 43歳

「人は何のために働くのか?」

そんな疑問に悶々としたことがある人は、きっと少なくないだろう。

私の母は女手ひとつで私達きょうだい3人を育て、朝から晩まで働いてきた。実家は駄菓子屋だったので友達からは羨ましがられたが、10円や20円の駄菓子を売ったところで利益など殆どなく、母は閉店後も明け方まで近所のファミリーレストランで皿洗いのパートをしていた。睡眠時間3時間の母の苦労をわかっていながら、私は感謝どころか自分の家がどんなに貧しいか思い知らされる度に、この家に生まれたことを恨み、酷い言葉をぶつけることでしか気持ちを保てなかった。母のことが大好きなのに、大好きだからこそ歯がゆくて悔しかった。

友達の誕生会、みんながフリルやリボンのついたワンピースでお洒落をして、プレゼントに人気のキャラクターグッズを可愛くラッピングして持参する中、私は目の前に座っている友達のお下がりを着て、安い文房具や家の駄菓子を茶色の紙袋に詰めて持って行く。

給食費の集金日、みんなはお札を入れた薄い封筒、私はかき集められた小銭でパンパンに膨らんだ封筒。小銭の重さで破ける度にセロテープで補強されたボロボロの封筒。

恥ずかしさで押しつぶされそうだった。人は真面目に働けばそれなりの暮らしができると信じていたのに、誰よりも一生懸命働く母は常に貧しかった。お腹が空いていないからと、自分の食事を私たちに分け与える。私の中で自然と働くことに対する疑問と世の中の不公平感が生まれた。納得できる答えが欲しかったし、わからないまま大人になりたくなかった。あの頃の心の葛藤を思い出すと、今でも涙が出そうになる。

そんな私も社会人となって23年、数々の職や立場を経験させてもらい、たくさんの人と関わりながら常に「働くことの意義」を考えてきた。そして漸く、少しずつだが自分なりの答えを見つけはじめている。

数年前、私は病気のため大きなプロジェクトから長期離脱を余儀なくされたが、おかげで大切なことを確認できた。

「感謝」だ。

ベッドの上では、自身のことや関わった人とのやりとりなどを回想し、色々な思いを整理する時間を持った。自分の居場所や必要とされる喜び、社会の一員である誇り、私に関わってくれた人すべてが私を育ててくれていると再認識。ちょっとしたすれ違いで仲違いしてしまったあの人、怒ってばかりの苦手な上司、色々な人がいたから色々な経験ができた。好きな人とだけ仕事をして、好きな案件だけを担当し、好きなだけ予算を使い、好きな時に休みをとる、なんてことはできない。泣いたり笑ったり怒ったり怒られたり、いい時もあればそうでない時もあって、それら全てが私を成長させてくれるのだ。

思い通りにならないからこそ忍耐力がつき、色々な人と接することで協調性が生まれ、人を許す強さや思いやる優しさが養われる。

経験が浅いままの私だったら、病欠に対する焦りや不安に囚われて何も学べなかったかもしれない。

働くことは、生きるために必要なお金を得る手段でもあるが、それだけではない、各々の意識でどんな意義にもできると思う。

私は、働くことによって感謝や心の成長を感じることができているが、夢や生きがいを見つけることだってできる。

今まだ人生半ばの私だが、「働くことで人の心は健全に育つ」と知った。

一人でも多くの人にも、自分なりの「働くことの意義」を見つけてもらいたいと思う。

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