社団法人日本勤労青少年団体協議会 名誉会長賞

【テーマ:世界と日本―○○から学んだこと】
教えることは教わること
中国天津市 神田 敏行 42歳

日本が戦後、目覚しい発展を遂げ先進国となった後、バブル経済が訪れその崩壊とともに人口の減少、高齢化社会の到来など日本という国はさまざまな企業の事情から海外に会社発展の活路を求め進出を開始したことは言うまでもない。日本はこれまで培った高度な技術力などを背景に、海外には先進国として進出している。

私は25歳で食品会社に就職し工場勤務を続けてきた。10年目に入った36歳のとき、中国の工場勤務となり現在も駐在勤務している。多くの日本企業は安価な人件費や巨大な市場に魅力を感じ中国進出を行っているが、そのほとんどが「私たち日本人は仕事を教える」ということを前提に現地に赴いているのではないだろうか。それは紛れもない事実であり、実際、中国で製造し輸出する場合には日本市場で通用する製品には多くの要求が求められる。また中国現地で販売する場合にも日本技術が取り入れられた製品は高い付加価値がつけられていると考えられているのが一般的である。この点は私たち日本人が誇れるべきことであり、この側面だけを見れば「中国進出=教える」という構図が成り立つことも理解できる。しかし私は中国で勤務する中で「教える」以前に大事なことがあることをこれから海外で働こうとする若者に言いたい。

「歴史は繰り返す」というが中国も日本が経済発展してきた中で経験してきたことを繰り返している点は多く見られる。例えば、労働争議、給与や雇用面での不満はこの国では取立て騒ぎや時には暴動騒ぎになる。また経済発展を優先した安全対策の不足などは炭鉱事故や環境汚染などを発生させ、これは戦後の日本が経験した路と同じである。中国でこのようなニュースを目の当たりにするとき私は、ただ日本人は中国で仕事を一方的に教えて満足するのではなく、彼らの考え方、現在の状況にもっと耳を傾けることの必要性を感じる。今何が不足しているのか、このようなことが起こる背景には何があるのかなど。

私の勤務する工場では日本向け食品を製造している。規格、品質など全ての要求が日本仕様であることは言うまでもない。それを指導するのが私たちの役目であるが、何度繰り返しても理解してもらえない時がある。このときに果たして私は彼ら、彼女らの置かれた境遇、背景などに耳をかたむけたことがあるだろうかと考えたことがある。工場で勤務する製造現場の主戦力は内陸からやってきた農村戸籍の若者たちが多い。彼らがどういう生活環境でどのような教育を受け、何を考えているのかをもっと私は知るべきなのだ。知らずしてよく私たちは「教えているがわかってもらえない、彼らが理解しない」と愚痴をこぼしてしまう。しかし本当は私たちが彼らを理解していないのだ。私たちと彼らのギャップは何なのか、私たちはそのギャップを埋めようと努力しているのか。仕事を教えることは、教わることでもある。彼らの置かれた境遇、考え方、そして中国は日本とは異なるということを、理解しているつもりでもいろいろな場面に遭遇し意見を聞いて学ばないといけないのだ。

これから将来、これまで以上に多くの日本人が仕事を教えると言う名目で海外に進出することになるだろう。そのときに忘れないでほしい。教える前に彼ら、彼女らの話に耳を傾けてあげることを。私たちが彼らに教えることはそれからでも決して遅くはないということを。

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