働きながらの妊娠、出産は、想像以上に大変だった。しかし、これらの体験が私に改めて、働くことへの喜びと意義に気付かせてくれた。
妊娠初期、小さな命が一生懸命に生きている姿を超音波で見て、感動した。それと同時に、「どのようにして、妊娠生活を過ごせば良いのか」という不安もあった。学校現場は、学級経営や保護者対応、会議、学校行事の準備等に追われていて、多忙な日々だからだ。仕事を次から次へとこなしていかなければならない現実を考えると、複雑な気持ちもあった。またこの頃から、つわりがひどく、出勤するのもつらい時期が続いた。どんなに体調が悪くても、仕事はほとんど休めなかった。幸い、職場はおおむね理解があったが、妊娠生活の一日一日を必死に過ごしていたことを今でもはっきりと覚えている。妊娠時の勤務軽減制度を利用しながら、乗り切ることができた。
小学二年生の担任をしていた私は、クラスの児童に、新しい命が授かったことを伝えた。その時から、体調の悪い私を気遣い「赤ちゃんが安心して成長するために!」と助けてくれた。給食準備や片付け、清掃等の学級活動に一人ひとりが、今まで以上に積極的に取り組んだ。クラス全体が互いに助け合い、協力し合って生活するようになった。「先生、赤ちゃんは今どのくらいの大きさかな?」や「赤ちゃんは、今おなかの中で何をしているのかな?」等、児童の中に思い思いの疑問が生まれてきた。皆が私の新しい命を大切に育ててくれた。私のおなかが大きくなるに連れ、自分の母親に、妊娠中の様子を聞く児童が増えた。教えてもらったことを私に話してくれる児童もいた。今まであまり話しかけてこなかった児童も、新しい命のおかげで接点がもてた。また、保護者からは「初めて、自分が産まれるまでの様子を知りたがり、授かった時の喜びを話せるきっかけになった」等の声を頂いた。児童や保護者の温かい心に触れ、私はその中で働ける喜びを感じた。
教師の仕事に無我夢中で取り組んできたが、私は自分の体験を児童に伝えることはまだできないと思い込んでいた。しかし、その時の私自身の体験や思いを素直に児童に伝えることが大切なのだと気が付いた。背伸びをせずに、児童に思いを伝えることで、共に命の大切さを考えながら生活できた。私に授かった小さな命が、私も含めて、児童に「命のすばらしさ」や「人を思いやる優しさ」を学ばせてくれた。妊娠しながら働くことは決して容易ではなかったが、働けることへの意義を実感した。
2011年3月11日の東日本大震災後、節電による間引き運転のため、大きなおなかを気にしながらの通勤となった。そんな妊娠8カ月頃から、切迫早産になり自宅で絶対安静の日々を送った。その約2カ月後、無事に女児を出産した。 現在、育児休業中だが、現場に復帰した時には、妊娠と出産の体験を通して「命の尊さ」を伝えると共に、育児の体験を活かせる教師になりたいと思う。
働きながらの妊娠生活は職場や家庭の状況により異なると思うが、今後も多くの女性がライフバランスを保ちながら、上手に乗り切ってほしいと願う。