【努力賞】
【テーマ:仕事とお金】
一所懸命に働きたい
愛知県 豊川市  松下 智治 64歳

50歳近くになっても仕事一筋で、趣味といえるものが一つもなかった私は、妻や娘から「お父さん、退職したらどうする」と言われても無視していた。しかし、退職した先輩と話をする機会があったときに、「時間をつぶすのがたいへん」という話を聞いた。経験から言われていたので説得力があった。書くことが好きだったことから、はじめたのが新聞への投稿。掲載されたときの喜びは大きく、謝礼までもいただける。何より頭を使うのでぼけ防止になり、年をとってからの趣味としては最適。そこで、旅行先で読んだ新聞はもちろん、愛知県図書館などで読んだ沖縄や秋田などの地方紙にも投稿し、今回のようなエッセイ募集にも応募するようになったのである。その他、野菜を育てたり、花を見に行ったり、また、3年前からは毎月のように旅行に出かけている。

教員を60歳で定年退職したとき再任用を断り、高等技術専門校造園科へ入校したのも、将来やれることを一つでも増やしたいという思いからだった。今は学んだ技術を生かして、お世話になった学校や知人の家の樹木を剪定している。昨年の1月からは人権擁護委員も引き受けた。

ところで、昨年10月16日に開催された「若者を考えるつどい2011」に参加したことが縁で、基調講演をされた佐々木常夫さんの著書「働く君に贈る25の言葉」を読む機会に恵まれた。その中で佐々木さんは日本理化学工業渇長の大山泰弘さんが「働」という字は「人の道を説く僧侶が、『人のために動くことを、働くというんだよ。人のために動いていると、愛される人間になる。だから一所懸命に働きなさい』という教えを込めてつくったのではないかと言います」と紹介していた。

私がボランティアでお世話になった学校などの樹木を剪定していることや、人権擁護委員として人権啓発活動や悩みを抱いている人の相談にのることは、まさしく働くことだ。

6月に給料をもらうために勤めている動植物公園への出勤は12日だった。残りの日も、旅行へ出かけたり、投稿原稿を書いたりの趣味の時間に使った他に、愛知県人権擁護委員連合会事務局を任され、総会があったために当日だけでなく準備があり、また、マツの剪定時期であったことから学校などにもよく出かけたので、週に一度休みがとれるかどうかで、現職で働いていた頃よりも忙しかった。
これは6月に限った話ではない。

一方、以前は休みの日は心身を休めるために、テレビを見るなどして、ボーとしていた。しかし今はまったくといっていいほど、このような過ごし方はしない。時間がもったいないからだ。妻からは「自分から忙しくしている」と言われるが、その通りである。

旅行などの趣味はもちろんのこと、動植物公園の仕事も大好きな花と緑に関われる。学校などの樹木の剪定は自分のペースで行え、人権擁護委員の仕事も仲間に恵まれたこともあるが、困ったことがあれば、すぐに法務局の方が助けてくれるのでストレスを感じることなく楽しくやれる。確かに体を使う仕事はきついと思うこともあるが、今の生活に慣れてきたこともあり、次の日にはまず回復するから続けられるのだろう。

10月には65歳になるが、心身共に健康で病院と縁がない生活をおくっている。これも忙しいというより、充実した第二の人生のおかげだと思っている。これをお金に換算すれば相当な金額になるはずだ。

動植物公園の仕事をやめれば、自分の時間は増える。そのときは、学校などへ樹木の剪定に出かける時間を増やし、お世話になった社会に恩返しするというより、自分のために一所懸命に働きたい。

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