親の遺伝とあきらめていた糖尿病。異変はある日突然、私を襲った。
よく行くサウナでタイルに足を滑らせ転倒し、水槽に頭をぶつけ、ゴーンと音がしたらしい。
ほんのちょっとの間気絶したようで、気がつくと周りに人垣があった。
救急車で病院に運ばれ、紫がかったまぶたのあたりを手当てしてもらったが、打ち所が悪いと手が施せなかったと医師に聞かされ、ぞっとした。
その医師が真顔で私に話した。
「血糖値も血圧も高く、ぜひ精密検査を」。
さっそく翌日、市立病院へ行くと内科医にいわれた。
「去年の特定健診で要診察の結果を出しましたが、受診されましたか」
「いいえ」
「きょうはこれから検査を受けてもらえますか」。
会話は医師のペースで一気に進んだ。
異常がオンパレードのデータを見せられ、強い調子で「入院をお勧めします」。
「はい、お願いします」と応えた私に医師と看護師はてきぱきと応対した。
退院後、野菜中心の食事とウオーキングにせっせと励んだ。
がんばった甲斐あって体重は8キロ減54キロとスリムになった。畑作業に精を出せるようになったのはラッキーだった。
定年後も私は、パソコンやケータイなどに滅法弱いネット弱者に甘んじた。
自分の考えを綴り、提案を含む投稿生活も目指したが、一歩踏み出せないでいた。
切羽詰まってパソコン教室に通ったが、予備知識もなくついていけなかった。
意気消沈の私に手を差し伸べてくれたのは孫で小学4年生の翔君である。
「僕でよかったらなんでも聞いてよ」。
明るく元気いっぱいの声に勇気づけられ、素直な気持ちで一から取り組めた。
同じことをそれこそ百回聞いてもきちんと笑顔で答えてくれるのはありがたい。
すぐに忘れてしまう私も繰り返し勉強すると目からうろこが落ちてのみこめた。
人と人のつながりやコミュニティーにもメディアの果たす役割は大きく、ネット社会の一員に仲間入りできたのは嬉しい。
私はライフワークの一つに「議会だより」の発行を思い描いていた。
議会本会議での市長ら理事者と議員のやりとりの要旨を希望される町内の人たちに配布するボランティア。
産廃処分場の撤退を求める住民請願や人件費と国等への借金返済の公債費の合計が予算の60%も占め、生活保護費の増大ぶりなども明らかになった。
産廃問題で市は、違法行為を監視し業者指導の条例を作ったという。住民有志は違法投棄や焼却処分等の規制色を強める条例の制定を求める構え。
また業者は、産廃の権限を持つ県に届け出済みで市の妨害は許せないと訴えた。
こうした身近な課題をみんなと考えるのに議会だよりは格好の媒体になった。
あのサウナでの転倒が私の人生を変え、アクティブな第二の人生の火つけになろうとは想像もできなかった。
働くのはなにも会社へ勤めることだけではなく、生きがいを見つけ、生き生きと生きることもまた「働く」ことだと思う。
機械が身につく翔君と、手書き中心だった私との格差や落差を嘆いても始まらない。
ここらで一休みしてみたいとも思うが、更なる前進への思いを翔君から学んだ。
その恩返しはこれからで、もうひとつの私の世界が静かに幕を開けようとする。
ちっちゃいことでいい、人さまのお役に立つことは素晴らしい。