【佳作】
【テーマ:世界と日本 ― ○○から学んだこと】
世界と日本 ― 会計学から学んだこと
京都府  前川 幸士 46歳

就労の年齢が高いほどよい社会だということであるが、近年の日本の状況は単純に喜べないように思う。高卒の就労先というのが極端に少なくなっている。これまでこの層の労働力が担っていた仕事をコンピュータなどの機械に委ねてコストダウンを図る企業が多くなってきたのである。社会情勢、経済情勢が変化してきた、まさに資本の有機的構成が高度化して労働者が不要になってきたということである。資本の有機的構成が高度化すれば企業の利潤率は低下するということは、『資本論』にも記されている経済学の常識であるが、今世紀の日本において、企業は資本の有機的構成の高度化によって利潤を増加させている。そして、その背後には、利益の内部留保の構造がある。

昨今、問題となっているのが大企業の内部留保である。借金経営が批判され、金融機関の貸し渋り・貸しはがしが起きた90年代以降、この内部留保が多い企業ほど優良企業と認識される傾向にあるため、企業はこぞって内部留保を増加させようとしているが、これを雇用に活用するべきであるという意見も強い。株主配当も行い、巨額の内部留保を持つ企業が、非正規労働者を中心とした大量解雇が避けられないとする合理的理由は考えられない。

このような意見に対する反駁として、内部留保は必ずしも現金預金という形態で企業内に留保されていない。内部留保は、過去の利益の蓄積であり、その多くは生産設備等に再投資されている。これを給与等の人件費として使うには、現金化しなければならない。つまり、生産のための設備を売却することになり、生産手段が無くなれば必然的に雇用も無くなり、仮に工場等の設備を売却しても、経年劣化した中古資産であり、二束三文にしかならないとの意見もある。内部留保は、剰余金を蓄積した資金であり、貸借対照表の貸方に記載されるが、これに対して、借方を見ると、確かに内部留保といえども必ずしも現金預金ではない。設備投資である固定資産であったり、棚卸資産であったりする。また、大企業の新規投資の動きを見ると、投機を含む有価証券などに多くが回されているのが現状である。

内部留保の増加により、多くの企業が自己資本比率を高めていることは事実である。内部留保には、単純な利益の内部留保の他、減価償却費など現金支出を伴わない費用の計上による資金留保効果も含まれる。資本の有機的構成の高度化に伴い、固定資産の流動化により運転資本を増大させる減価償却が、内部留保の機能を果たす割合は大きくなっている。また、他にも各種の引当金により同様の効果が生じる。

減価償却費など現金支出を伴わない費用によって生じた資金は、株主総会とは無関係に企業経営の側で任意に活用することが可能である。同種の負債性引当金に退職給与引当金があるが、これもまた繰入時に現金支出を伴わない費用が計上される。これを合理的に積立、合目的に利用されていれば、いわゆるリストラ時にも問題が緩和される。さらに、今後は雇用調整のための引当金なども考えられるはずである。

大企業が、減価償却によって生じた資金を雇用に活用すれば、非正規労働者の雇用も保障できるはずである。不況下において、事業を拡大し、生産設備の拡張を図ることは得策ではない。また、金融資産に投資しても有効とは考え難く、人材に投資することこそが望ましい企業経営である。不況下において、労働者を解雇することなく、人材の育成に堅忍不抜努めれば、近い将来において大きな利潤となる可能性が高いはずである。また、大企業は雇用を安定させ、労働者の生活を守るという社会的責任を果たさなければならない。

職場は、資本主義社会における人間生活の基盤となる共同体である。その意味でも働くことは、人間生活の基礎である。ならば、職を保障することは社会の義務ではないだろうか。

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